LAST EDEN‐楽園のこども‐
「なっ……」


思いがけない行動に面食らった、というところだろうか。


感謝するどころか、和樹は涼を睨んで、むしろ苛立だしげに怒鳴った。


「何やってんだよ、いーから行けって言ったろ!」


言ってから、和樹は胸に罪悪感のようなものが込みあがってくるのを感じた。


あまりにも正直すぎる自分の態度が、褒められたものではないことぐらい、彼自身も承知している。


だから、内心どんな言葉が返ってくるのかと身構えていた和樹は、待っていても浴びせられない罵声を待ちかねて、再び視線を目の前に向ける。


まっすぐに涼と目を合わせた彼は、声もなくただハッとした。


「あんたのためじゃない」


まるで自分が視線を合わせるのを待っていたようだった。


戸惑う和樹に、抑揚のない声で答えた涼は、わずかに睫を伏せると、今度ははっきりと重みを感じさせる声で言った。


「そいつのためだ」


その瞬間、和樹の胸の奥がドキンと音を立てる。


(こいつ……)
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