LAST EDEN‐楽園のこども‐
「その手には乗るかよ」


涼はふっと息を吐くと、唇だけで浅く笑う。


「ガキの喧嘩であんな傷がつくわけない。襲われたってんじゃなきゃ、思い当たる節は一つしかないね」


いじめ―――――。


それも、ひどく陰湿なものだろうと、涼は思う。


制服についたススの跡、埃にまみれた髪の毛、そして手足に点のようについた鮮やかな痣の色は、明らかに集団リンチを受けたことを意味する。


いつの時代も、馬鹿なガキがいるぜ。


容易に想像できるいじめの様態に、涼は胸の中で舌打ちした。


限度ってもんを知らねぇのか。


これだから、群れる奴らは相手にしきれねぇってんだ。


涼は、これまで那智と共に、様々な修羅場を潜り抜けてきた。


初めから強かったわけではない。


時には傷を負い、折れた骨の痛みに眠れない夜もあった。


集団で待ち伏せされていたこともあった。


それこそ真斗のように、大勢に追い回されたことだって何度もある。


だが、それを卑怯だとは思わない。


やり方に卑劣さは感じても、強い力を求める者、そして自分の信念を貫こうとする者たちとの拳のぶつかり合いを、涼は否定するつもりはなかった。


戦いという土俵の上で交差する互いの信念。


誰も、決して遊び半分でその力を誇示するためではない。


よって、ゲーム感覚で他人を傷つけるような力など、涼に言わせれば愚の骨頂であり、ましてやいじめなどというものは、その最たるものであった。
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