LAST EDEN‐楽園のこども‐
「だから何だよ」


涼の頬に浮かんだ冷めた笑いに、佐伯はギョッとした。


なぜ、笑っていられるのだろう―――――。


佐伯には不思議でならなかった。


侮蔑にまみれた教師の言葉も、今の和樹の言いようも、涼には大したことではないのだろうか。


自分の感情ですらこんなにも揺さぶられているのに、涼は本当にどうでもいいと思っているのだろうか。


自分を?


それとも、人間そのものを?


佐伯の問いに答えはない。


訊ねられても、涼は平然と笑って聞き流すだけだろう。


そんなことを知ってどうする、お前に何の得があるのかと、皮肉気に頬を歪めるだけだろう。


その瞳に、胸を刺すほど寂しそうな孤独の光を浮かべて。


「あんたたちの方こそ、何か勘違いしてるぜ」


「こらバカ」


止めるように差し出された那智の腕を振り払うと、涼は迷子のように悲しげな表情で佇む和樹を見据えて言う。


「何を期待してんのか知らねぇが、あたしは別にスーパーマンじゃない。むしゃくしゃして暴れることもあれば、気まぐれに猫を拾うことだってある。それを、誰かの都合で勝手に見上げられたり見損なわれたりしたんじゃ、たまらない。冗談じゃないね」
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