LAST EDEN‐楽園のこども‐
いつの間にか、涼の頬からは笑みが消えていた。


それに気づいた那智は、頭を抱えたくなる思いで舌打ちする。


「この、直情バカが」


那智の呟きを無視して、涼は再び口を開く。


「それから、あたしがわざわざ傷つけるようなことを言ったって言うけどな。だったらお前は、これから先ずっと傷つかないように生きていけんのかよ。汚いもの、辛いものから全部目をそらして、蜂蜜みたいに甘い世界で、ぬるい水に浸って生きていけんのかよ」


その言いように、和樹は言葉を失って涼を見据える。


和樹だけではない。


他の部員たちも、涼の言葉に聞き入るように耳を傾けていた。


「簡単に傷つく方が問題なんじゃないのかよ。カサブタの歯がゆさに顔をしかめてるならまだいいさ。だけど、自分で治せもしないくせに傷ばっかり作って、その痛さを持て余してる方が問題じゃないのかよ」


龍堂は思う。


なぜこの少女は、こんなにも辛そうな顔をして言葉を吐くのだろうと。


佐伯もまた考える。


どうして彼女の言葉は、こんなにも自分の胸に響くのだろうと。


頼知も真斗も、そして面識のない頼知に三神までもが、涼の言葉にジッと聞き入るように口をつぐんだ。
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