LAST EDEN‐楽園のこども‐
かばう人間もいない涼には、どんどん加速する噂を止める術もなければ、他人が自分に抱く勝手なイメージを払拭できる場所もない。


ゆえに、和樹の知っている雨宮涼は、決して捨て猫のために立ち止まるような人間ではないはずだった。


むしろ、震える体につばを吐き掛け、恍惚の笑みを浮かべ、足蹴にするような人間のはずだった。


けれど―――。


「簡単に優しくしやがって……」


 独り言のようにそう言った直後。


「この猫は、あたしが面倒見る」


言うが早いか、涼はスッと腕を伸ばして和樹の腕から猫を抱き上げる。


そして、和樹が何かを言う前に、涼は和樹に背を向けた。


「傘は貸さない。風邪引きたくなかったら、走って帰れば」


じゃあね、と言って背を向けた姿に、和樹は噂と現実のギャップを感じる。


そのギャップが何なのか、和樹には説明がつかなかったが、この場合、凉の言い分の方が正しいということは、なんとなく和樹にもわかっていた。
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