LAST EDEN‐楽園のこども‐
「どうしたんだよ」




悲しげな頼知の声が続く。


「お前、一体何があったんだ?」


搾り出すようなその言葉は、涼の記憶の奥底を乱暴につつく。


涼は、唇をかみしめた。


そうしなければ、今ここに立っていられないと思った。


脳裏に浮かぶのは、楽しかった頃の思い出。


世界中の幸せの中に自分がいると信じていた頃の、浅はかな自分の姿。


頼知もまた、得意のポーカーフェイスが崩れるぐらいに動揺していた。


頼知に好意を寄せる人間は、少なくない。


テニス部ではエースを張るほどの腕前に、学内テストにおいても成績優秀な上、端正な顔立ちはファンクラブができるほど整っている。


つまり、どこを取っても羨望の的である頼知の周りには、いつも大勢の人間がいた。


自分の関心を惹きたい人間が、群れをなして集まってきた。


だから、自分から距離を置くことはあっても他人から線を引かれることのない頼知には、あきらかに警戒心を抱いている涼が不思議だったし、またその事実は、彼の自尊心をわずかに、けれど確実に傷つけた。
< 29 / 134 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop