LAST EDEN‐楽園のこども‐
「背も大きいよね。何かやってるの?」


興味津々というように、無邪気に訊ねる涼に、頼知は戸惑いながらも答えた。


「テニス、してんだ」


抑揚のない声でポツリと答えると、涼はパッと目を輝かせて驚いたように声を上げた。


「テニスしてると、背がおっきくなるの?いいなぁ」


「別に、なにもよくねーよ」


「だって……」


そこで言葉を切ると、涼は、恥ずかしそうに視線を伏せた。


「私、クラスで一番ちっちゃいんだもん」


「……あぁ……」


言われてみれば、涼の背丈は他の女子よりも頭一つ分低い。


小学校低学年だと言われれば、納得してしまうかもしれない。


「だからもう少し、せめてあと三センチぐらい大きくなりたいんだけどなぁ」


控えめな願い事に、頼知は思わず顔をほころばせる。


どう見ても三センチでは足りないだろう。


「一桁足りねぇだろ」


からかうようにそう言うと、涼はプウッと頬を膨らませて唇を尖らせた。


「えー! そんなことないもん、ひどいよ佐々木君!」


「別に、悪気はないんだけど」


「もう、悪気がない方がひどいってば!」


コロコロと変わる表情。


素直な反応が可笑しくて、頼知はつい声を上げて笑ってしまう。


「あっはっは」


学校で笑い声を上げたのは、転校してきてそれが初めてだった。


今思えば、頼知がクラスに溶け込むきっかけを作ってくれたのだろうと思う。


整った顔立ちのせいで冷たい印象を与えてしまう頼知には、どことなく近寄りがたい空気が漂う。


決して意図的にやっているわけではないのだが、涼の目には、そんな頼知の姿が壁を作って周りを拒絶しているように映ったのであろう。
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