LAST EDEN‐楽園のこども‐
無言の刹那が二人を包む。


排気音が唸り、大勢の人間が行きかう雑多な景色の中で、二人のいる場所だけが、まるでそこだけ時が止まっているかのように澄んでいた。


やがて、頼知が口を開く。


わかった、と。


その表情に、先ほどまでの憂いの影は微塵も残されていない。


替わりに、普段の彼が見せる独特の冷淡さが浮かび上がって、端正な横顔をいっそう際立たせる。


「わかった。消えてやるよ。望み通りな」


そう短く切り捨てるように言って背を向けた頼知の後ろ姿には、誰も寄せ付けない孤高のオーラが漂っていた。


けれど、その胸の内には深い絶望が影を落としていたことなど、誰が知っているだろうか。


長い睫の下に、隠しきれない動揺が広がって、涼しげな彼の瞳を悲しく彩っていたことなど、涼にはもはや気に咎める余地もないことである。
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