LAST EDEN‐楽園のこども‐
「何なんだよ、こいつは」


「さぁな」


世間話、特に学内の噂には疎い涼も、龍堂が誰なのかは知らない。


けれど、同じ中学生とはどうしても思いたくないほど立派な風格と威厳を漂わせている龍堂は、あまりお近付きになりたくない存在には変わりない。


「本人に直接聞いてみろよ」


からかうように言うと、那智ははぁ、と大きな溜息を返した。


「バカ言え、バカ」


勘弁してくれと言いたげに首を横に振ると、面倒くさそうに長い髪をかきあげる。


「あの手の熱血バカは苦手なんだ」


涼同様、恐らく本能で何かを感じ取った那智は、避けるように顔を背ける。


アンダーグラウンドで生きている那智からすれば、龍堂のような人間こそ、胡散臭いという表現に値するのである。


まっすぐで、正義感の塊のようで。


融通がきかず、自分の価値観から外れた奴は人間じゃないとすら言いそうな雰囲気を持ち合わせている龍堂。


那智にとっては、そんな奴こそ人間とは思えない。


関わり合いになる前に立ち去るのが賢明だと判断した那智は、急がば回れとばかりに涼を振り返って念を押す。


「約束。忘れんなよ」


「気が向いたら、な」


「ったく、しまんねーの」


そう言って軽く笑って背を向ける那智に、不意に龍堂の鋭い声が投げられた。


「どこへ行くんだ」


逃げる―――反射的にそう思ったのだろう。


龍堂の、詰問するような口調が那智を捕らえた。
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