LAST EDEN‐楽園のこども‐
「話はまだ終わっていない。俺の質問に答えろ」


見知らぬ人間に怒鳴られる。


それだけでも那智の神経を苛立たせるには十分であったが、次の龍堂の無神経な言葉が、那智の感情を逆なでした。


「名前と、それから学校名を言え。学生の身分で、好き勝手しているなど許されたことではないからな。保護者を呼んでしっかりと指導してもらわんと」


「……は?」


那智はゆっくりと振り返る。


「なんだって?」


そして、龍堂を睨んだ瞳には、一瞬で息の根を止めてしまいそうな残虐な闇が浮かんでいた。


「黙って聞いてりゃ、さっきから随分いろいろと言ってくれてるけど」


那智はそこで言葉を切ると、切れ長の黒い瞳に力を込め、ギリッと龍堂を睨んで噛み付くように叫んだ。


「うるせーっつーんだよ。何様なんだよお前は、神様か、ああ!?」


龍堂の人生において、他人、それも女子に怒鳴られた経験はゼロに等しい。


目を丸くしていると、那智は眉間のしわを不快そうに寄せて、すごむような声で言う。


「どこに行くって、学校に決まってんだろう! 大体、お前が行けっつったんだろーがバカやろう。間抜けなこと聞いてんじゃねぇ!」


嘘をつけ、と、涼は内心冷ややかに笑う。


登校時間に那智が中学に顔を出したことは、涼の知る限り、一度もない。


様子を見かねて、以前涼も龍堂と同じようなことを言った気もするが、そのとき那智は鼻で笑ってこう言ったのだ。


「バカだねぇ、お前は。いいか? 学校ってのはな、頭の悪い奴が、少しでも賢くなる勉強をしに行くところなんだよ。あたしみたいに生きてく術を知ってる奴にゃ、まったく必要ないね」
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