LAST EDEN‐楽園のこども‐
「あたしが声かけたんだよな」


那智は懐かしそうに目を細める。


「あのときお前は、いかにもお嬢様って感じの服着ててさ。育ちの良さそうな匂いが、体中からプンプンしてやがった」


言って、気恥ずかしそうに苦笑を浮かべる。


その思いは、出会った頃に飛んでいた。


「何か気に触ってさ。多分、大事に育てられましたって雰囲気が羨ましかったんだと思うね。だから、世間知らずのお嬢ちゃんに、外の厳しさを教えてやろうと思ってさ。ここは、ママと喧嘩したぐらいで足を踏み入れていい場所じゃないんだって。だけど、お前は物も言わずに睨み返すだけで。こっちは何人も引き連れてたってのに、怯えるわけでもなく、ただジッとあたしを睨み返してたんだっけな」


あの頃は、単なる可愛げのねぇガキだったのに―――。


「今じゃ、すっかり顔になっちまってさ。ここらでお前の名前を知らない奴はいないんだぜ」

涼は、那智の言葉をぶっきらぼうに遮るように口を開く。


「今日呼び出したのは、昔話をするためか?」
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