LAST EDEN‐楽園のこども‐
恐らく、進退に関する話だろうと思う。


その時期が来たら聞いてやろうと思っていた涼は、那智が口を開くのを待つ。


ムードを大切にする親友に、いちおうは気を遣ってやったのである。


涼が珍しく気遣いを見せたのを知って、那智はクスリと笑う。


そして、おもむろに口を開くと、目を細めて遠くを見やる。


「そろそろ、身を引こうと思ってんのさ」


その言葉を聞いたとき、涼の胸の奥が、ドキン、とかすかに音を立てたような気がした。


「へぇ」


涼は、皮肉気に口元を歪ませてみた。


「そりゃ、思い切った決断だな」


動揺している自分を隠すように笑ってみせるが、うまく笑えない。


那智が夜の街から消える。


それは、涼にとっても、とても容易に思い描けることではなかった。


「理由を言えよ」


「理由なんかねーよ」


呟くように答えて、那智は窓の外に視線を向けた。
< 61 / 134 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop