LAST EDEN‐楽園のこども‐
不敵、と。


その表現が最も似つかわしい態度であった。


それはもしかしたら、ときに狡猾で卑怯ですらある真斗の、実は隠された本性なのかもしれない。


「貴様……」


「うわ、ちょっ」


怒りに震える声で殴りかかってきた少年をヒラリとかわして、真斗は両手を挙げて降伏のポーズをしてみせる。


「ちょっと、みんな冷静になろうよ。暴力なんて、前衛的なことはやめようよ、ねっ」


だが、心無い言葉で、まるで弄ぶように踏みにじられた少年の中に、冷静さを取り戻す余裕はもはや残されていなかった。


おまけに、相手は真斗のせいで、夢も、そして高校の推薦まで失っているのである。


「お前も俺と同じにしてやる!」


どんな理由があっても、暴力はいけない。


力ずくで言い聞かせた言葉に、どんな説得力があるだろう。


武力を盾にしなければ成り立たない主張に、どんな意味があるだろう。


だから、多勢で待ち伏せをした彼は、勿論間違っていると言わざるを得ない。


けれど、荒っぽい行動に出た彼を咎めることはできても、その気持ちを責めることが、誰にできただろうか。


憎々しく叫んだ彼の全身から滲み出る口惜しさと無念さに、胸を痛めない人間がいるとすれば、それは人の形をした機械だと感じてしまっても仕方がないかもしれない。
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