LAST EDEN‐楽園のこども‐
「何してんだテメーは。放せこの痴漢」


涼は実に不機嫌そうな声で言った。


が、その唇は、真斗の手のひらに押さえつけられて塞がれてしまう。


「しっ、黙って!」


声をひそめて短く言うと、彼はそのまま涼の髪の中に自分の顔をうずめた。


「ふー、んむ」


口を押さえつけられている涼が、腕の中で必死にもがく。


「お願いだから、静かにして。変なことはしないから、絶対!」


真斗は全神経を集中して、耳を澄ませた。


パタタ、パタタ。


すぐそばの道を、複数の足音が走り去って行く。


すべての足音が聞こえなくなったところで、真斗は顔を上げて、その腕を解いた。


「ふーっ、助かった」


大きく安堵の息を吐いた、そのとき。


パシーン。


「いてっ!」


右の頬に、真斗は痺れるような痛みを感じた。


「何すんだよっ!!」


「お前こそ何したんだ」


振り上げた手を下ろすと、涼は鋭い眼差しで、真斗を睨んだ。


「いきなり抱きついてきやがって。警察に突き出してやろうか」


「だ、抱きついたって! ちょっと協力してもらっただけだろ」


「協力だぁ?」
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