LAST EDEN‐楽園のこども‐
バスケではハードなプレイスタイルをする真斗だが、殴り合いの喧嘩などというものには、幸いにも遭遇していない。


他人に手を上げたこともなければ、親に叩かれたことすらないのである。


しかし、真斗は考える。


涼は自分が初めて好きになった女の子だ。


その惚れた相手が、たとえ友人同士の喧嘩であっても殴られる姿というのは、我慢ならない。


それぐらいなら、自分が代わりに殴られた方が数倍もマシだ。


よし。


涼をかばって殴られる覚悟を決め、心の中で短く呟いたそのとき。


歯車は、真斗を嘲笑うかのように逆回転する。


「心配なんかするなよ」


その繊細そうな唇に、涼は真斗が驚くぐらい優しい笑みを浮かべた。


そんな顔もできるんじゃん……。


「ガラじゃねぇだろ、そんなの。あたしも、お前も」


凛とした眼でまっすぐに那智を見つめると、聞く者の心に沁みこむような深い声で、静かに言う。


「あたしが転んだら、お前は笑えよ。間抜けな奴だって、普段どおりにさ」


真斗には、涼の言葉の真意はわからない。


転んだ人間を見て笑うような人間とは、真斗は絶対に友達にはならない。真斗だけではない。


他人が転ぶ姿を見て笑える人間など、誰が友達になりたいと思うだろう。
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