LAST EDEN‐楽園のこども‐
だが那智は、言葉の意味を図りかねている真斗の前で、しだいにその眼差しの冷たさを緩めると、口元に笑みを浮かべ始めた。


そして、はん、と息を漏らすと、先ほどとは比べ物にならないほど穏やかな表情を浮かべ、金色になびく長い髪を、サラッと揺らした。


「笑ってやるよ」


低い声で言う。


「お前の無様な姿を指差して、思う存分笑い飛ばしてやる。覚悟しとけよ」


「ああ」


涼は短く頷くと、右の口角を上げて、不敵な光を瞳にたたえた。


「それを聞いて安心したぜ」


真斗にはわからない。この二人が、一体どういう知り合いなのか。


涼の言葉も、それを受けて答えた那智の本意も、心を許せる友人のいない真斗には、理解できない。


だが、それでも彼は何となく感じていた。


この二人の間に流れる、強い絆を。涼と那智の、無音の共鳴を。


その姿はまるで、馴れ合うだけが友達じゃないのだということを、真斗に教えているようだった。


こんな付き合い方もあるのだという証を、形にして見せてくれているようだった。


こういうの、親友って言うんだろうな。


周りにいる人間をすべて蹴落としてきた二年生エース・桐谷真斗は、そのとき初めて、自分の周りにそういう友達がいないことを、少しだけ寂しく思うのだった。
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