LAST EDEN‐楽園のこども‐
担任が去ったホームルーム後の教室。


机を寄せて作った小さな空間の中は、子供たちが純粋な悪意をむき出しにしたコロセウムになる。


「暗いんだよお前は!」


ガッ、と背中に走る鋭い痛み。


輪の中心にいるミウが鈍い衝撃に顔をしかめると、自分の背中を蹴り飛ばした女子は、はは、と渇いた笑いを浮かべて楽しそうに叫んだ。


「バーカ」


「……きゃっ!」


チョークの粉がミウの頭からかけられると、周囲からワァッと歓声が上がった。


ショーの観客は、クラスメート全員。


女子も男子も、誰もがミウの虐げられる様を傍観しては、笑い、喜ぶ。


勿論、全員が騒いで観戦しているわけではない。


中には、痛々しそうな表情を浮かべて、顔を背ける女子もいる。


関わりを避けて、知らん振りをする男子もいる。


だが、もっとやれと野次を飛ばし、ミウの虐げられる様を見て狂喜する生徒と、見て見ぬふりを続ける彼らの間に、何の差があるだろう。


違いは、身を乗り出して見ているかどうかだけではないだろうか。


いじめにおいて、傍観者などという都合の良い逃げ道は存在しないのだ。


「うわ、きったねー」


容赦なく浴びせられる罵声に唇をかみ締めながら、ミウは考える。


どうして自分はいじめられているのだろう。


何もしてないのに、どうしてみんなは自分を見て笑い、自分を傷つけるような言葉を吐くのだろう。


その場にいるだけで蹴られ、突き飛ばされ、まるでゴミのように扱われる。


珍しいものでも見るような好奇の視線とともに、嫌悪にまみれた汚い言葉を投げつけられる。


あたしはゴミなんかじゃないのに。


そう思うたび、ミウは悔しさと悲しさに涙が溢れた。


けれど。
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