LAST EDEN‐楽園のこども‐
数百円ならいざ知らず、予備校へ支払う何万円もの大金を数え間違う奇特な人間が、どこにいるだろう。


しかも、無くしたのは体育で外に出ていたわずかな間である。


誰かが盗ったと考えるのが当然ではないだろうか。


しかし、目の前にいる立派な大人は、薄汚れた視線で嘲笑の笑みを浮かべているのだ。


自分のミスを他人のせいにするんじゃない、と。


確かめもせず、ミウの過失だと言わんばかりに。


この人には、何を言ってもきっと通じない―――。


面倒な問題は見て見ぬ振りを決め込んだ担任の姿に、ミウは全身でそう感じた。


よってそれ以上の言葉を胸にしまうと、ミウは足早に職員室を後にしたのだ。小さな胸に、かすかな喪失感を抱いて。


だが、それからだ。


ミウに対する、クラスぐるみのいじめが始まったのは。


担任に相談したミウに、最初はチクリ屋というあだ名がついた。

次に、体操着や教科書などの身の回りの私物が無くなるようになった。


そして、ゴミ箱を探しても見つからないそれが校舎裏の池に捨てられていたそのときに、ミウは悟ったのである。


自分は、飢えた子供たちのかっこうの標的になったのだと。


汚れた水草をかきわけて、まだ冷たい春の水に手を突っ込んで教科書を拾い上げながら、ミウは泣きたくなった。
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