LAST EDEN‐楽園のこども‐
動体視力の優れた目がある物体を捕らえると、その足はピタリと止まった。


「あ?」


思わず足を止めたもの。


それは、猫だった。一匹の白い仔猫が、電柱脇に置かれた箱の中で、うずくまって雨に打たれている。


迷わず抱き上げると、温もりを宿したそれは、和樹の腕の中で弱々しく「フミー」と声を上げた。


「なんだ。お前、捨てられたのか」


和樹は、肩掛けのスポーツバッグからタオルを探して取り出す。濡れた体を拭いてやるためだ。


「汗臭いかもしんねーけど、少しはあったかいだろ」


力を込めれば潰れてしまいそうな体を優しく拭いてやりながら、和樹は横目で仔猫が入っていた箱を一瞥した。


どうやって運んだのだろう。ダンボールを持って住宅街をうろつく姿というのは、かなり目立つはずだろうに。


(もう使えねーな、こりゃ)


湿って濃く変色したクラフト紙を見つめて、和樹は困惑の吐息を一つ落とす。


胸の中に抱いている小さな命に視線を戻せば、和樹を困らせている張本人は、何かを察知したように顔を上げて、一際可愛らしくミャアと鳴く。


それは、まさに連れて行けと言っているようで、和樹は思わず気持ちを声に出した。


「参ったなー」
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