LAST EDEN‐楽園のこども‐
小さな涼の後ろ姿を見つめながら、人知れず見張った瞳が困惑の色で覆われる。


佐伯ですら溜息が出るほどの罵声を浴びながら、それでも平然としていられる理由が、どうしてもわからなかった。


全国大会常勝組のテニス部でも、レギュラーたちは相当な精神力を強いられる。


だが……。


不思議な、少女―――――。


今まで見たことのない人種に出会って、気を惹かれたとでも言うのだろうか。


やがて佐伯は、弾かれたように涼の後を追いかけていた。


「待ちたまえ」


佐伯は涼に追いつくと、、スタスタと歩き去ろうとするその背中に声をかける。


「そこの、短い髪の女子、あなたです」


その瞬間、涼は自身の足をピタリと止めた。


よくよく辺りを見渡さなくとも、廊下を歩いている女子は自分一人だけである。


「何だよ」


そこに佐伯の顔があるのを見ると、振り向きざまに、はぁ、と溜息が零れた。


「またかよ」


小さな声で呟く。


「何です、またとは」


「いや、いい。こっちの話」


涼は、この頃見知らぬ人間とよく話す機会に遭遇する自分の不遇を思って、苦笑する。


厄日どころか、厄年じゃねぇのかよ。
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