発情クライシス
「こっち向いて」
「あ……っ」
掴まれていた手を引かれて先輩と向き合う。
後ろを向いて俯いていたわたしは、突然の衝撃に思わず顔を上げて、
滲む視界に映ったのは、日に透けて輝く柔らかい茶髪。
「せ、せんぱっ……!」
気付いた時には腕の中。
驚いて、溢れる涙は止まった。
「……ねぇ、ヒナちゃん」
「は、はい…」
「どうして…逃げたの?」
「え?」
逃げた、って……。わたしは逃げたくて、だけど先輩に捕まって、だから逃げれなくて……?
違う。あのとき、あの黒髪の女の人を見て、あそこに居たくなくて。
だから、逃げ…た?