キミのとなり。
そんな私の思いとは裏腹に、年が明けてしばらくすると、次第に仁は忙しくなり出した。


音楽雑誌にマイクロシティが紹介された事から、読者から問い合わせが殺到し徐々に注目を浴び始めたのだ。


地元のライブハウスでの活動も少しづつ少なくなり、歌番組にテレビ出演も決まったらしい。


どんどん違う世界の人になっていくみたいで、私は心は複雑だった。


マンションへも今までのように毎日は帰ってこなくなり、何日も部屋を空けることも多くなった。


それでも毎日メールや電話をくれる。


でも寂しくないと言ったら、嘘になる……。


溜息混じりで出勤すると、後ろから若菜ちゃんが飛び付いて来た。


“ガシッ!”


「せんぱーい!おはようございまぁす。」


「ビックリしたぁ……。」


「先輩!マイクロシティすごい人気ですよね!」


「……だね。」


「あら、嬉しくないんですかぁ~!?」


「まぁ……色々。」


「おかげでうちのケンちゃんも大忙しですよぉ!」


「ケンチャンもねー…。」


 ……ん?


「うっ、うちのケンチャン!?」


思わず大声で振り返った。


「アレ?言ってませんでした?」


「聞いてませんけど!?」


「私達、付き合ってるんですよ。」


「えぇぇっ!?」


ニコニコ嬉しそうに答える若菜ちゃん。


若菜ちゃんの話しによると、あの日私たちと食事をした後、二人で居酒屋を二軒ハシゴしてそのまま酔った勢いで“ホテル”へ直行し、色んな意味で“結ばれた”らしい……。


確かにケンチャンも満更でもなさそうだったしな。


しかしやることが早いなぁ。


ケンチャンもあんな童顔のくせに手は早いんだな。


ちゃっかり左手薬指に指輪をキラキラ輝かせている。


あっ……なら、もしかすると若菜ちゃんだって今の私と同じ心境なんじゃっ!?


どんどん彼が有名になって普通に会えなくなっていく辛さがわかり合えるかもしれない。




< 111 / 554 >

この作品をシェア

pagetop