キミのとなり。
涙が溢れて言葉も出ない私に仁はそっと呟いた。


「……ごめんな。」


「なんで謝るの!?」


「俺の力不足だ。」


力不足?


「でも絶対ビッグになるから!そしたら誰にも何も言わせないから!」


「何よそれ!意味わかんないよ!」


「ここも、出ることになったんだ。」


「……え?」


「事務所が新しく住むところ用意したみたいで。」


そんなっ…

「ここに住んでる事が少しづつばれ始めてるみたいで。」


「じゃっじゃあ……どこに行くの?」


「落ち着いたらちゃんと連絡するから。」


「なんで教えてくんないの!?」


仁は何も言ってくれない。


そんなんじゃただのファンの子達と変わらないじゃん。


「じゃ……行くわ。」


仁は静かに背を向けた。


どんどん小さくなるその背中に走り寄って抱き着く気力も、もう残ってないよ。


もう……このまま会えないのかな。


“ガチャン……”


そして扉はゆっくり閉まった。


私は全身の力を失い、その場に崩れるように座り込んだ。


戻って来て……お願い。


「冗談だよ!」って…


もう一度笑って……。


“ピンポーン”


――その時、チャイムが鳴った。


「仁!」


“ドタドタドタッ”


慌てて玄関へ走り込み、ドアを開けた。


だけどそこに立っていたのは、


「ビッ…ビックリしたぁ。」


晶子と晃だった。


すごい勢いで出て来た私を見て、勘のいい晶子は何かただならぬ空気を感じとった。


「あっ晃!あんたちょっとコンビニでジュース買ってきてよ。」


「え~?ちょっと上がってからでいいじゃん。」


「いいから早く行くの!」


晃のお尻をバシッと叩く。


「イッテ!わぁったよ!」


ふて腐れた様子で晃は下へ降りて行った。


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