キミのとなり。
女性が事務所に入ると同時に誰か出て来た。


仁だった……。


女性は出て来た仁の肩に手をやると、すれ違い座間にこう言った。


「早く済ませてよ。」


仁はドアの所に立ちこっちを見て驚いた表情を浮かべている。


しばらく下を向き考え込んだ後、仁はゆっくり私に近づいて来た。


顔を見るのはあの日、別れを切り出された日以来……。


「どした……。」


その声を聞いただけで、もう泣きそうだった。


「どしたじゃないよぉ。」


会いたかったんだよ。


ポケットに手を入れたまま周りを気にしつつ私に話しを続けた。


「……悪かったな、色々。」


“コクンッ”と頷いた。


「本当だよぉ……。」


涙を流さないようにするので精一杯だった。


仁はポンッと私の頭に触れた。


「……あれ、なんか背ぇ縮んだんじゃねぇ?」


「ち…縮むかっバカ!」


「……ふふっ。」


「…へへっ。」


久しぶりに見る仁の笑った顔。


ぎこちない空気が流れる。


「随分、部屋すっきりしちゃったね。」


「…あぁ。」


「あっ…タマは!?」


「事務所で飼ってる。」


「そう、大きくなった?」


「子供産んだ。」


「え!?本当?」


「いつの間にって感じだよあいつ……。」


「ふっふふ…」


どれぐらいぶりだろう、仁とこんな穏やかな時間を過ごすのは。


なかなか本題に入れない。


長い長い沈黙が二人を包む。


「……あのさ、」


その重い沈黙を破り私は仁に話しを切り出した。


「私、ちゃんとわかってるよ。」


「……。」


また下を向く仁。


選べるわけないよね、一緒に頑張ってきた仲間を裏切ってなんて……。


「それでいいと思うよ。」


「……千秋。」


無理して笑った。


「応援するよ、ちゃんと。」


「……。」


「その代わり……」


ずっと伝えたかった事。


やっと伝えられる。





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