キミのとなり。
「仁が納得したら迎えに来て?」


「……え?」


「もっともっと有名になってじゃんじゃん歌も唄って周りに認められて……」


涙が自然と流れ出ていた。


「もうこれがてっぺんかなって……思えたら、


その時もし、まだ私を好きでいてくれていたら、」


『迎えに来て……。』


もう涙を止められなかった。


精一杯背伸びした自分が愚かで。


「ありがとうな。」


仁はボソッとそうつぶやいた。


「あんたに会えてよかったよ。」


「……喧嘩ばっかだったけどね。」


にっこり笑う私。


「それでもいつも楽しかった。」


「……うん、私も。」


仁は私に右手を差し出した。


“お別れの握手…”


この手を握ればもうさよならを言った事になるね。


私は差し出された手を見つめながら思った。


もし、わがままが許されるなら――


『会えなくてもいい』


『邪魔はしないから』


『そばにいさせて』


そう、言いたいと……。


自分の中のもう一人の自分が最後の悪あがきをしている。


でも……ダメなんだ。


それは……ルール違反。


ゆっくり右手を伸ばした。


“ギュッ…”


握りしめた手。


仁の右手からは私があげたブレスレットがはずされていた。


仁の決意の堅さが伝わってくる。


「元気でな。」


「仁もね。」


私たちはゆっくりその手を離した。


「……じゃあ。」


「うん。」


ゆっくり私に背を向けて歩き出す仁。


さよなら――


ありがとう。


“またね…”


こうして私と仁は別々の道を歩き出した。



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