キミのとなり。
『あんた覚えてる!?千秋先輩の事ちゃんと覚えてる!?』


会場がざわつく。


どっどうしよ……


驚いた顔で会場を見渡す仁。


そして仁の目が大勢の観客の中から、私を見つけた。


「……。」


一瞬仁の口が、私の名前を呼んだ。


声にならない声で“千秋”って……。


『あんたのおかげで先輩がどんだけ辛い思いしてるかわかってんのー!?』


そう叫ぶ若菜ちゃんに事務所の関係者が近づき、まだ辞めようとしない彼女を必死にとり押さえる。


「こらっ離して!まだ話しは終わってないのぉ。」


会場から白い目で見られながらも若菜ちゃんは必死に仁に訴えた。


私なんかの為に……。


仁はステージで立ち止まったまま、私をみつめていた。


なんてせつない顔してるの。


そんな顔で見ないでよ……。


若菜ちゃんは関係者達に外に連れ出された。


立ち止まったまま動かない仁……。


そのうち現れた例の事務所の女性に腕を引かれ、ステージの袖に消えて行った。


大変な騒ぎになっちゃった。


はっ……若菜ちゃん!


心配になって表に出ると、事務所の人にきつく注意されている若菜ちゃんがいた。


「だから!あいつが悪いんだってば!」


まだその男たちを相手に突っ掛かっている。


私は慌てて仲裁に入る。


「ごっごめんなさい!お騒がせしました!」


深く深く頭を下げ何度も謝罪して、なんとか事は丸く納まった。


「あぁーすっきりした!」


平然とそう話す若菜ちゃん。


「びっくりしたよ……。」


「でも、気付いてましたね先輩に!」


「……。」


だけどまさかあんな顔されるとは思わなかった。


しばらくして、出て来た彼氏と共に若菜ちゃんは帰って行った。


「……私も帰ろ。」


そう足を踏み出した時だった――



突然後ろから声がした。


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