キミのとなり。
前よりは手際もよくなったはずなのに、仁はまだ私の横に立つと「下手くそ!」と言う。


だからいつか絶対「上手くなった」と言わせてみせるとひそかに闘志を燃やしている。


なのに、一緒にキッチンに立つ事も一緒にご飯を食べる事さえ減ってきた。


仁は私が仕事へ出掛ける頃に帰って来て、私が帰宅する頃出掛ける事が多く、下手すれば丸一日顔を見ない日もある。


私が仕事を辞めればいい話しなんだけど、別に結婚しているわけじゃないし完全に仁におんぶに抱っこってのもどうなのか……


なんて、変にプライドの高い私がいたりもする。


「はぁ~」



頭で色んな事を考えつつ調理を進める。



「よし!できた。」



仕方ない……一人で食べるか。


そう思ってエプロンを脱いだ時だった。


ガチャっと玄関のドアの開く音がした。



あれ?帰って来た!?



私がリビングのドアに手をかけようとした時、向こうからドアが開いて仁が疲れた様子で入って来た。


「びっびっくりした~!おっお帰りぃ!早かったね。」



「おぅ。」



仁は『ふぅー』と溜息を漏らしながらニット帽とサングラスを外しソファーに投げる。



すると仁の投げたサングラスがソファーで寝ていたタマの頭部に見事的中。



『ミヤァー!』



相当痛かったのかうなり声を上げるタマ。



「なんだお前、そんな所で寝てんなよ。」



腕にタマを抱き上げグシャグシャと頭を撫でチュッとタマにキスをした。



仁はタマと接している時、一番リラックスしているような気がする。



きっとタマは仁にとって“癒し”の存在なんだろう。


なかなか手強いライバルだったりして。



よし!人間様をなめるなよ!!


なんて、猫ごときに闘志を燃やしている私もどうなんだろう……。


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