キミのとなり。
「ねっねぇ!ビーフシチュー作ったんだ!食べる?」



満面の笑みで私がそう言うと仁は一瞬手を止めた。



「……お前作ったの?」



「他に誰が作んの!」



仁は恐る恐る鍋に近づき、怖いものでも見るかのようにゆっくり中を覗き込む。



「ちょっと!何なのよ!変なもん入ってないから。」


それでも心配そうに鍋の中の匂いを嗅ぐ素振りを見せる。



っとに失礼な奴!!



すると仁はゆっくり私の顔を睨み付ける。



「おいしそうでしょ!?」


「おまっ、これビーフシチューに見せ掛けたカレーなんじゃねぇの?」



はっ?



「あっあのね~、いくら私でもカレーのルーとビーフシチューのルーを間違えたりしないっての!!ほんっとイイ性格してるよ!人がせっかく好意で作ってあげたのに~!」



余裕釈々で手元にあったビーフシチューの箱を確認。



「……あっあれっ!?」



手に持った箱には何度見直しても“とろとろカレー”と書かれていた。



“やっぱりか”と言いたそうな目で私を見る仁。



「おっおかしいなぁ!ちゃんと確認して買ったのになぁ~。」



隣でただただ呆れ顔の仁。


なんで私はいつもどっか抜けてるんだろう……。


「まぁーいい。今夜はカレーで。」



仁はタマを床に離しそう言ってテーブルについた。



「そっそうだね!カレーの方がおいしいしね!」



開き直った私は冷たい目線を背中に感じながらお皿を出す。



カレー……。



しゃもじ片手に炊飯器を開けた瞬間それは当然の様に私の目に入った……



空っぽの炊飯器……。



「…あっ」




嫌な予感をさせつつ仁が後ろから声をかける。



「今度は何。」



愛想笑いでゆっくり仁の方を振り返る。



「フッウフフ……」



「………」



「ご飯炊くの忘れた……」



仁は呆れ返って言葉を失った。



『ミャ~~』



タマの鳴き声だけが空しく部屋に響いた。



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