キミのとなり。
今にも死にそうな声で鳴くその子猫を腕に抱き、自分のマフラーで暖め始めた。


傘も差さずに……。


その内、仁は子猫を抱いて立ち上がった。



ふと、振り返った仁が私に気付く。



「……。」



咄嗟に話し掛けた。



「……どっ、どうするの?その猫。」



仁はただ黙ったまま、私の前を通り過ぎた。



「えっちょっ……!」



その後を必死に追い掛けた。



「ねぇ、もらってくれる宛てでもあるの?」



「ない。」



は!?



「じゃっ、じゃーどこにいく気なの?」



ただ黙って仁は歩き続ける。



子猫は仁の胸で不安そうな鳴き声を上げている。



「ちょっと!どうするの?」



「ついてくんな、うっとうしい。」



なっ!



「わっ、私はただその子猫が心配なだけでっ……」



「ちゃんと世話するから心配ない。」



世話するったって……


ん?



世話する!?



「えっ?かっ飼うの!?」



「他にどうしろってんだ。」



「だっ…だってうちのマンションペット禁止だし。」



「バレやしねーよ。」



「……でっでも、」



マンションの入口に着いた時、急に仁が立ち止まって振り返った。



「あのままあそこに放っておけって言うのか!?」



すごい剣幕で私を見る仁。



一瞬空気が凍り付いた。



そんなに怒んなくたっていいじゃん。



しばらくの沈黙の後、仁は私に背を向けて小さな声でこう言った。



「お前、黙っとけよ。」



それだけ言って、子猫を抱いてそのまま部屋へ上がって行った。



不器用だけど、あれがあいつの優しさ……



なのかな。



その日以来、仁の部屋からは子猫の元気そうな鳴き声がするようになった。



あいつが動物に優しいなんて、かなり意外だった。



でも、まだまだ私の隣人は謎に包まれている。


< 24 / 554 >

この作品をシェア

pagetop