キミのとなり。
結局、彼の強引さに負けて渋々喫茶店へ入る事になった。


はぁ~。押しに弱い自分に嫌気がさす。


私の前の席で桜井君は悠長にサンドイッチ片手にアイスコーヒーを飲んでいる。


時々目が合うとニッといたずらに笑う。


勝手に仕事抜け出してこんな所でリラックスできる辺り、ただ者ではないな。


相当図太い神経の持ち主とみた!!


「あれ?食べへんの?」


ハスムターのように頬を膨らませて私をみる彼を見て思わず吹き出しそうになる。


「いただきまぁす。」


出来立てのフレンチトーストにフォークとナイフを突き刺す。


そういえば、仁とはこういう昼下がりの喫茶店で普通にデートしたこと一度もないよね。


こんなのんびりした時間を過ごしてみたいな……。


「っで?」


「え?」


「何でついてきたん?」


「あっ……だから。社会人として注意を。」


「ほうほう、聞きましょ。部長の説教受けるよりマシや。」


なんか、一々小ばかにした言い方するよね……。


気を取り直して私は軽く深呼吸を済ませ、“説教”を始めた。


「あっあれは良くないと思うよ!?」


「あれって?」


「気に食わない事があったからって、勝手に早退なんかして。」


「……。」


私から目を反らしふて腐れた顔で窓の外を見ている。


「中学生じゃないんだし!責任感ってのが必要だと思うなぁ。」


「……。」


「そんなんだから部長に……っ」


「あぁ!!」


私の話しを遮るように窓の向こうを指差す。


「ジンだっ!!」


はぁ?


人が真剣に話してる時になにがジン……っ


えっジッジン!?


「えっ!?どこどこっ?」


思わず立ち上がり窓にへばり付く。


キョロキョロと表の人込みを見渡すが仁がいる様子はない。


「ねぇどこよ!」


私がそう聞くと、正面で頬杖をつきながらいたずらな微笑みで私を見上げている桜井君。


……またやられた。
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