キミのとなり。
「おい、どした?」


弘人はゆっくり立ち上がり落ちたハンカチを拾って私に差し出した。


「ありがと……。」


またゆっくり隣に腰掛け様子を見ている。


「もしかして、仁となんかあった?」


「……。」


「喧嘩でもしたのか?」


うううん、と首を振った。


「なんか言われた?」


またうううん、と首を横に振る。


「さっきから、そればっかなんすけど。」


ポケットから携帯を取り出す。


鳴らない電話。
どうしてかけ直してくれないんだろう。


リダイヤルを押してみる。


“仁”


だけど、また女が出るんじゃないか……そんな気がしてかける勇気がなかった。


それを見ていた弘人が私に聞いて来た。


「……まぁ、男と女だし色々あるだろうけど、誰かに話すだけで楽になる事もあるぞ。ん?」


そこには変わらない優しい弘人の笑顔があった。


昼食を食べ終えると私は、今朝の出来事を弘人に話した。


弘人はあまりに冷静な反応だった――


「それさぁ、事務所とか仕事関係の女だったんじゃないか?」


「私も……そう考えてる。」


「そんなわかりやすく浮気するやついないだろ。」


……お前が言うなっ。


「朝帰りなんて明らかに変だと思われるじゃん。」


「でも仕事柄、朝帰りなんてしょっちゅうだし……」


「信じてんのか疑ってんだかどっちなんだよ!」


「……半信半疑だよ。」


「……。」


信じてて裏切られる怖さは忘れたくても忘れられないよ。


本人前にしてアレだけど。


「まぁ、そんなに気にしなくても大丈夫だよ。」


「……。」


「お前っ、相手は芸能人だぞ?そりゃ周りに女も多いだろうしいちいち疑ってたら身体がもたないぜ?」


わかってる……。
元々、女友達も多いし一緒に飲みに行ったりもするって昔公言してたし。


おまけに、そんなんでいちいち妬かれるのは面倒臭いって言われてるわけだし、思ってても聞けないよ。


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