キミのとなり。
「……っ!」


あまりに突然の事に身動きすら出来なかった。



「ちょっちょっと!!何やって……っ。」


慌てて仁を跳ね退け後ろへ離れた。


「なっ何考えてんの!こんなとこ誰かに見られたらっ…。」


キョロキョロと入念に周りに人がいないか確認する。


仁は“してやったり”といった顔をしながらまたパーカーを頭から被った。



「なっななんでっ!?」


私のしどろもどろの問い掛けに仁はケロッとした顔で答えた。


「したかったから。」


「……はぁ?」


ボー然と立ち尽くす私を残して、一人満足気に去って行く仁。


それはまるで、私の不安な気持ちを逆に楽しんでいるかのようだった。


……なんだったの、今の。


危険過ぎる仁の悪ふざけに、心臓が爆発するかと思った。


部屋に入ると、リビングのドアが開いてタマが仁の足元に走り寄って来た。



仁はしゃがみ込みタマの頭をぐしゃぐしゃと撫でてかわいがる。



いつもの見慣れた光景のはずだけど、何度見てもキュンとなる。



優しい笑顔でタマに笑いかける仁。



その姿を見ている内に、私の胸に込み上げてきたひとつの不安の“塊”


私は無意識にその背中に問い掛けた。



「聞きたいことが……あるの。」


「ん?」


仁はしゃがんだままこっちを振り返った。


「あの……ね、」


「……。」


「おとつい……どこに泊まった?」


「おとつい?」


「帰ってこなかったじゃない!?」


仁は天井を見上げて思い返している。


そしてその内、思い出したように口を開いた。


「あぁー、ケンたちと飲んだ日か。そのまんま酔い潰れて寝ちまったんだよ。」


やっぱりメンバーと飲んでたんだ!



少しホッとした。



でもまだ肝心な所を聞いていない。




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