キミのとなり。
「何ムスッとしてんの。」


「別に!」


「“別に!”」


仁はむくれた私の声を真似てそう言う。


益々むくれ上がった顔で仁を睨み付ける。


「フっフフ…口が“ヘの字”になってますけど。」


「……。」



やけに余裕振った仁が嫌だった。


思い返して見れば私、仁にやきもちを妬かれたりした事が一度もない。


私はいつも、浮気されたらどうしようとか綺麗な人と一緒にいるんじゃないかとかそんな事ばかり気にして生活してるのに。


さっきだって何気に桜井君の存在をアピールしたのに、仁はそれさえ気にも止めない。


仁が大人なのか私が子供過ぎるのか……。


悔しい。


片付けを済ませ、明かりの消えたロッジへ入る。


すっかり寝静まった晃たちを起こさないように静かに仁の後に続いて寝室に入った。


「……。」


「……。」


機嫌を直すタイミングが掴めず、無言のままジャージに着替えた。


先に着替え終わった仁は、そそくさとベッドに入り私に背を向ける。


また……面倒臭ぇって、言ってる背中。


自分で自分が嫌になるよ。


どうして不満に思うことを素直に伝える勇気がないんだろう。


『自分ばっかり必死みたいで嫌だ』


『もっと妬いて』


『私に自信をちょうだい』


『仁に愛されているという自信を……』


私は無言の背中にそう投げ掛けた。




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