キミのとなり。
涙が溢れて来た。


それを隠すために早足で歩いた。


「……あっおいっ!」


女の所に忘れたんだね。


やっぱり……。



仁は後ろからついてきてこう言った。



「あっそうだ。お前の携帯貸せよ、俺のにかけてみるから。」



「……だめっ!!」



物凄い勢いで振り返る。


仁はびっくりした顔で私を見ていた。



「いっ今、充電切れてるから。」



「……あぁ、そうか。」



咄嗟に嘘をついた。



知らないふりをできる程、大人じゃないくせに……。


だけど、今はまだこの夢のような現実から目覚めたくなくて仕方なかったんだ。


水族館を出た所でまた携帯が鳴った。


着信は“仁”だった。


出ようか出まいか悩んだ揚句、携帯片手にみんなから離れた。


「ごめん、買い忘れた物があるから先行ってて!」



「えっおい、千秋!」


そう言って走り去った。


私の胸で鳴りやまない携帯。


怖い……現実を知るのが怖いくせになぜだろう。


私は息を落ち着かせてその電話に出た。




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