キミのとなり。
言葉にできない程の痛みが胸を締め付けた。


元の場所に戻ると、仁が一人で待っていた。


私と目が合うとゆっくり近寄ってくる。


「お前さぁー“先に行ってて”って一人で帰ってこれんのかよ。」



あ……



「晃たちが先に帰ってるはずだから、ほら!行くぞ。」


タクシーを捕まえて乗り込む仁。



さくらが言っていた事が頭を過ぎる。



確かに仁は朝帰りしていたし、もしそれがさくらの所に泊まったんだとしたら……


「おい!早くしろ。」



「あっ……」


慌ててタクシーに乗り込んだ。


隣で窓の外に目をやる仁。


ねぇ、嘘だよね?


浮気なんて……


仁に限って、ないよね?


信じていい……よね?



「なぁ。」


ドキッ


突然仁が振り返った。



「何、買い忘れたんだ?」


「……えっ!?」



「……。」


「あっ……こっこれ!」


慌ててさっき晶子といる時に買った、携帯ストラップを取り出した。


「……なんだそれ。そんなもん買うためにわざわざ戻ったのかよ。」



呆れた顔でそう言う。



「…へっへへへ。」



きっと、大丈夫だよね。



ね? 仁……


夕方――


荷物をまとめて空港へ向かう。


「あっと言う間だったなぁ。」


助手席で頭の後ろに手を組んで晃がつぶやいた。


「つうか、土産買い込み過ぎだろ……。」


タクシーの中はトランクに積み切れなかった土産袋が足元にまでぎっしり…。


「考えて買えよ。」


「……すんませーん。」


私の隣で仁は毒舌交じりに冗談を言う。


この旅行で少し疎遠気味だった私たちの関係はすっかり打ち解けて、昔に戻ったみたいだった。



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