キミのとなり。
そのうち雨は上がっていた。


「あっ雨、止んだな。」


そう言って傘をたたむ。


「……桜井君、なんでここに?」


「……え?なんでって。ここ、俺ん家の近くやし。」


「……えっ?」


辺りを見渡すと見慣れない光景。


「先輩こそ……なんでこんなとこに?先輩の家、もう一駅先やろ?」


そっか……


私、知らない内に一駅分歩いて来たんだ。


「ちょっと歩きません?」


桜井くんの優しい笑顔に私はゆっくり立ち上がる。


普段のワックスでビシッとセットされた髪も、今は無造作におろされていて、なんだか別人みたいだった。


グレーのジャージにサンダル……片手には買い物袋。


見慣れない姿。


「ジャージ姿……初めて見た。」


「え?あぁ、近所に買い物に出るときは常にいつもこんな感じ。」


恥ずかしそうに頭を掻いた。


会社でのビシッとしたスーツ姿しか見たことなかった私は、彼の飾らない姿がやけに新鮮だった。



二人で並んで歩く。



たまにチラッと私を気にする桜井くん。



そりゃそうだ。
頭から水を被ったみたいに全身びしょ濡れで、おまけに足元まで泥だらけ。


誰がどう見ても何かあったとしか思えない状況。


でも、彼は何があってこんなびしょ濡れであんな所に座り込んでいたのか……


決して聞こうとはしなかった。



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