キミのとなり。
「俺んとこ来るか!」



「……へ?」



「まぁージンみたいにモテへんし、男前ちゃうし、背も高ないし?…歌も下手やけど。」


ちらっと私の顔を確認する。


「……もっと楽に恋愛させてあげる自信はあるで。」


いつものおどけたような笑顔はなく、真っ直ぐ目を見てそう言った。



「……桜井君。」



「だから、俺と付き合お。」


私はなんて悪い女だ。


仁の事で落ち込んでいるくせに、桜井君にそんな風に言われて胸がときめいている。


でも……


「そういう訳にはいかないよ。」


「……なんで?」



「だってっ……あっちがダメならこっちって……それじゃーやってること同じだよ。」


「……。」



「そういうのは、なんか……違う。」


私の横で彼はフゥーと深い溜息をついたあと、うんうんと二回うなずいた。


「そうやな。確かに、そんなんでこっちに来られるのも違うかもな。」



「……うん。」


「どうすんの?これから。」


「まだわかんないけど、今の部屋には居られないかな。」


「……それでいいの?」



「こうなった以上、一緒に居てもお互いを傷つけ合うだけだから。」



「でも……好きなんやろ?」


隣で真顔でそう確認するように私を見つめている。



「もちろん、好き。」



「……。」



「でも……だからこそ、許せない。」


涙ぐみながら強くそう言った私に、桜井君は急に顔を近づけた。



えっ……



「キスしていい?」



「えっ……。」



「……。」



無言のまま彼は顔を少し斜めにし、私の唇に目をやる。





< 297 / 554 >

この作品をシェア

pagetop