キミのとなり。
「疲れたから帰るわ!」


頭に巻いたタオルをパッと取り払うと、晃が立ち上がった。


「えっもう?気悪くした?本当にごめんね……こき使って。」


パチンと顔の前で手を合わせた私に、晶子はブンブンと手を横に振った。


「違うの!」


「え?」


「実はね、今日記念日なんだ。付き合って4年目の…それで今からレストランに予約入れてるんだ!」


あっ…そうだったんだ。


そんな大事な日に、なんか余計悪いことしちゃったな。


「まっそういうことだ!片付けサボんなよっ」


「また困ったことあったらいつでも言っといで~!」


背中越しにバイバイと手を振る晃の後を、満面の笑みで晶子が走ってついていく。


「あっありがと!」


二人は幸せそうに腕を組んで部屋を出て行った。


なんか、いいな・・・。付き合って4年も経つのに、未だに記念日にお祝いするなんて。私もそんな風になりたいナー。


――ふと、部屋を見渡す。


・・・いや、今はそんなこと言ってる場合じゃない!早くこのごみ屋敷みたいな部屋、何とかしなくちゃ。


ダンボール箱に手をかけようとした時、また玄関のドアが開いて帰ったはずの晶子が顔を出した。


「あっ千秋、挨拶周りだけは忘れずにね!それと、戸締りも、最近物騒だから気をつけてね!」


まるで娘を心配するお母さんのようで思わず吹き出しそうになった。


「はいよ・・・」


私は再び玄関で二人を見送った後、気分転換もかねて挨拶周りに持っていく粗品を買いに出る事にした。


隣りの分と下の階の分でいいのかな……。


悩みに悩んだ揚句、とりあえず石鹸のセットを二つ買うことにした。


部屋に戻ると、早速挨拶周りに部屋を出る。


初めに向かった下階の住人さんは、少し年配の愛想の良い女性だった。


問題は隣りだ。


しょっちゅう顔を合わせるとなると、やっぱ最初の印象って大事だよね。


よしっ!大きく二回深呼吸。


ゴクッと唾を飲んで、インターホンに手を伸ばした。


その時――

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