キミのとなり。
強く抱きしめられると、また涙が込み上げてくる。


「……夢だった。」



「……。」



「こんな風に交差点のど真ん中で抱きしめられるの……夢だったんだ。」



それを聞いた仁の腕に、また力が入った。


「こんな形で叶うなんて……皮肉だね。」



仁は何も言わなかった。



そして、ゆっくり体を離し私の両肩に手を置いた。


顔を上げると仁は、


泣いていた……。


仁……



初めて見た、仁の泣き顔。


なんで、泣いていてもこんなに綺麗なの?



「仁……」



仁はゆっくり顔を近づけ、私の唇に自分の唇を重ねた。


私と仁は交差点のど真ん中でキスをした。


もう一つの夢が叶った瞬間だった。



だけど、それは皮肉にも、魔法の解けるキス……


夢の終わりを告げるキスだった。



「ありがとう、夢を叶えてくれて。」



仁はゆっくり私の頬を伝う涙を親指で拭った。


「本当に、終わりなのか?」


「……仁。」


こんなに弱々しい所、初めてみた。


泣き顔を見つめていると今までの色んな事が蘇ってくるよ。


初めてこんなに誰かを愛おしいと感じた。


生まれて来てよかったと何度も思った。


この人の為なら命も投げ出せるって本気で思った相手が


“仁”だった。



そんな風に思える相手に巡り逢えた事に感謝しなきゃいけないね。


神様、ありがとう。



最後はちゃんと笑顔で別れたい。


そんな思いから無理に笑顔を作った。



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