キミのとなり。
でも、泣かない。



これは、お互いが幸せになるための別れなんだから。


スゥーッと大きくひとつ深呼吸をした。



息が震えている。



《ミャー…》



足元でタマが私を見上げて鳴いている。



その鳴き声に我に帰る。


ダメだダメだ。



後ろ振り返ってちゃ……。



「さっ…、荷物詰めなきゃね。」


猫にまで気丈に振る舞い、寝室へ向かった。



“ガチャッ”



クローゼットを開けて、自分の服を鞄に詰めた。



ふと、傍にあるベッドに目が行く。



ベッドの上でキスを交わす二人の姿が浮かんでくる。


消そうとしても消えない……


忘れようとも忘れられない……


うううん、忘れちゃダメなんだ。


ちゃんと過去も現在も全てを受け入れて前へ進まないと意味がないよね。



私はそんな風に少しづつ、思い出も一緒に鞄に詰め込んだ。


とりあえず、すぐにいるものだけを持って玄関へ向かう。



《ミャー…》



タマ……



しゃがみ込んでタマの頭を撫でた。



「ごめんね、連れていってやれないんだ。ご主人様が心配するといけないからね。」



《……》



こうしていると、またタマを拾ってきた時の仁を思い出す。



どしゃ降りの雨の中、自分のマフラーにタマを包んでびしょびしょになりながら立っていた仁……。



今思うと、あれが全ての始まりだったような気がする。


あの夜がなければきっと、私達はただの隣人だった。


「タマ……、お前にも感謝しなきゃね。ありがとう。」


《ミャ~》



「……行かなきゃ。」



私は最後にまたタマを抱き上げ、その小さな鼻先に優しくキスをした。



「……バイバイ。」



《……ミャーミャーッ!》


別れがわかるのか、寂しそうに鳴いている。



背後で聞こえる鳴き声に耳を塞ぐように、私は部屋を後にした。



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