キミのとなり。
マンションのエントランスを出る。



涙が零れ落ちないようにと見上げた空は、雲一つない快晴だった。



私の決心は間違ってないよって、誰かがそう言ってくれてるみたいだ。



もう一度深く深呼吸をして、重いボストンバッグ片手に歩き出した。



通い慣れた道……。



たったの一度も、仁と腕を組んで歩くことはなかった道。



私はここから新たな一歩を踏み出す。



新たな……



隣に仁のいない人生の一歩を。



私は、その足である場所へ向かった。



“ピンポーン”


「はぁい!」


ちゃんと、話さなきゃいけない人に会いに。



“ガチャッ”


開いたドアの向こうで目を丸くして私を見ているのは晶子だ。


晶子は、私の突然の訪問に一瞬驚きを隠せない様子だった。



「どっどした!?」



「へへっ……来ちゃった。」


一瞬戸惑った晶子も、なんだか様子のおかしい私に気付いた様子でこう言った。

「入って!」



いつもと変わらない笑顔の晶子に導かれ、私は部屋の中へ入った。


ここまで気丈に振る舞って来たのに、晶子の顔を見た途端、今にも崩れ落ちそうになった。







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