キミのとなり。
「それからしばらくは会ってなかったんじゃが、偶然わしの行きつけの居酒屋で働いとるのを見つけてなぁー声をかけたんじゃよ。」


「“まだ夢は叶ってない”言うて、苦笑いしとったのをよう覚えてるわい。」



「……。」


「話しを聞いたら、居酒屋の他にレストランの皿洗いや新聞配達なんかも掛け持ちしとるのを聞いてなぁ…路上でギター片手に座り込んどるのを見たこともあったなぁー。」



仁が路上で……?



そんなの初めて聞いたな。


「この部屋は夢の叶う部屋や言われとるけど、あの男の場合は自分で掴んだようなもんじゃわなー。」


目を閉じると蘇ってくる。



ライブハウスで歌っていた仁の姿…



あそこへ行くまでに図り知れないほどの努力があったんだ。



仁の全てをわかってたつもりだったけど、まだまだ知らない事だらけだったんだ。


あんなに一緒にいたのに……


なんか、悔しい。




一歩一歩壁際を辿る。



この部屋には目に見えない仁の努力が滲み込んでるんだ。



そう考えたら涙が出そうになった。




やっぱり私、夢を追い掛けてる仁が好きだったんだ。



ちゃんと応援しよう。



全てを前向きに受け入れて応援しよう。


「おぉっと、申し訳ない、余談が過ぎたのぅ。」



「……いえっ」



「それで、どうするんじゃ?」



 ………


 ………



「決めます、ここに。」



「おぉ、そうかい。気に入ってもらえてよかったわい。じゃー早速なんじゃが…」



私の中でもつれた糸が少しだけど



解け始めたような気がした。


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