キミのとなり。
この部屋で夢を必死に追い掛けていた仁の姿がまぶたの裏に浮かんでくる。



見てもいないのに、はっきりと……。



まるで、目の前に仁がいるみたい。




「だって、邪魔したくないからって身を引いて……“じゃー頑張って”ってのも違うと思わない?」



《…うん。》



「前向きな別れっていうのはさ、笑ってる事だと思うんだ。」




《え…?》



「別れた後、お互いが笑って暮らしてる事だと思う。」



《千秋…》



スゥーっと深呼吸を二回繰り返した。



「それができなきゃ、応援してるって言えないしね。」


《……。》



不思議だな。



涙が出ないよ。



《それが本当に千秋の気持ちなら……私は何も言わないよ。》



晶子は小さく、だけど力強くそう言った。



「うん、ありがとう。」



《でも、正直ね悔しいの。》



「え…?」



《せっかく決意した千秋に、こんなこと言うの反則だと思うんだけど……》



何か躊躇した様子で少しの間を置いた後晶子が言った。



《二人には一緒になって欲しかった。》



“ズキッ”




今までなんともなかったのに晶子のその一言が




たったその一言が



私の胸を痛いほど締め付けた。




「うん、ごめんね。」



そう言うしかなかった。


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