キミのとなり。
――終業後、桜井君と並んでエレベーターに乗る。



「はぁーめっちゃ疲れたわ。ほんまなんで外回りの上に会議にまで出なあかんの!?意味わからん。」



私の横で少しネクタイを緩めながらそう言う。



いつもマイペースな奴、



まだまだ子供で、どこか危なっかしくて……




でも、いつも変わらない態度で接してくれて、時に男らしく引っ張ってくれる。



仁とはまったくタイプの違う人だけど……



“アリ”



なのかな……




「なんか食いに行く?」



「うん、そうだね。」



私たちは笑い合ってロビーを出た。



「あっ……!」



突然桜井君が立ち止まる。



「ん?どうかした?」



体をペタペタと触って何か探している素ぶりを見せている。



「ごめっ財布デスクに忘れてきたわっ!」



「え?……ってか、そう言っておいて私におごらせる魂胆なんじゃないのぉ~?」



「ちっ違うわっ!ちょっ……ちょっと待ってて!すぐ取ってくるから。」



そう言って後ろ向きで二、三歩進んだ後慌てて社内へ戻って行った。



ふふっ…おっちょこちょいだな。



けど、キャラに合ってて許せるかも。



玄関口でそんな事を考えながら夜空を見上げた。



ポツ…ポツポツ…



ん?



「あっ…」



雨だ……。



ツイてないなー。



傘ないし、タクシー拾うか。



「ごめんごめーん!」



背後から息を切らせた桜井君が走ってきた。



「げっ……雨降ってきてるやん。」



桜井君は空に手をかざしながら残念そうな表情をする。



「タクシー拾おっか。」



「そうやな。」



桜井君が携帯を取り出しタクシーを呼んでくれた。



数分後、タクシーが到着した。



先に乗った彼に続いて足を踏み入れようとした時……


私の視界はある一点に奪われた。




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