キミのとなり。
えっ…



思わず立ち止まる。



錯覚…?



もう一度目を細めて、そこにいる人物を確認した。



「……。」



間違いなかった。



見覚えのある帽子……



見覚えあるサングラス。



雨の中、傘もささず立ち尽くすその人物は……



「……仁」



だった。



どうして……



「どないしたん?」



タクシーの中から桜井君が顔を出す。



「えっ…あっ……」



「先輩?」



私の目はそこにいるはずのない仁の姿をとらえて離さなかった。



「行くで?」



「あっ…うん。」



もし、例えそうでも……



ダメだ。



今会ったらダメになる。



沸き起こる気持ちを押し殺し、目を背けてタクシーに乗り込んだ。



私達を乗せたタクシーはゆっくりと走り出す。



桜井君は様子のおかしい私を横で不思議そうに見ていた。



体が無意識に震え出す。



会いたい、会いたい、




今すぐ走り寄りたい。




私の全身がそう叫んでいる。



どんどん仁が遠くなる。



仁はどんな思いであそこに立ってたの?



「なんかあったん?」



桜井君が私の顔を覗き込む。



「んっ?……うううん、ちょっと寝不足で気分悪くなっただけ!」



心配そうに私を見ている彼に罪悪感が込み上げた。



「そうなんか……ほんならええけど。」



ごめん。



ふらついてばっかりの自分が嫌になる。



もつれた糸はまた複雑に絡まってその解き方を探している。


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