キミのとなり。
「すっすいません!止めてください!」



私の口は勝手にそう叫んだ。



“キキィー”



タクシーは慌ててストップした。



「えっ…どっどうしたん急に!?」



横で目を丸くしている桜井君に頭を下げた。



「ごめんねっ…行かなきゃ。」



「…え?あ…ちょっ」



後部座席のドアを力いっぱい開き、雨の中走った。



“バチャッ!”



水溜まりがはじける。



わかってる。



会っちゃいけないって。




でも……



でも……





今会わなきゃもう一生会えない気がしたんだ。



会社の玄関口に戻り、辺りを見渡す。



仁……



仁……




「じっ……」




私の目はその愛しい人をとらえた。



仁は雨に打たれながら、ガードレールにもたれ掛かり力無く俯いている。



“カツカツカツ…”



びしょびしょのパンプスでその横顔に近づいた。



愛しい横顔がこちらを振り返る。



例えようのない苦しさが胸に走る。



「……仁。」




そして私に気付いた仁は、ゆっくり微笑んだ。




「…よぉ。」



仁が発したその一言で、私の視界は溢れ出した涙で遮られたんだ。



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