キミのとなり。
ひと月ぶりに会った仁の笑顔は、なんだか疲れているみたいで寂しそうに見えた。


「どっどうしてっ……」



どうしてここにいるの?



そう聞こうとしたのに、声が震えて話せなかった。



ガードレールにもたれた仁が立ち上がりゆっくりこっちに近づいてくる。



“ドキッドキッドキッ…”


私の鼓動は懐かしいときめきにを取り戻す。



「ちょっと話せるか?」



仁が静かにそう聞いた。



「えっ…」



「ダメか?」



寂しそうにそう聞く仁を見ていたら無意識に首を横に振っていた。


歩きだす仁に付いていく。


久しぶりの感覚……



懐かしい背中……



どうして私、仁といるとこんなに穏やかな気持ちになるんだろう。



私はただその背中を追い掛けて歩いた。



雨が降っているのも忘れて。


しばらく歩いた所に黒い大型の二輪バイクが置かれていた。



仁はそこにあったメットを頭に被ると私にも、ひとつ投げ渡した。



「買ったの?バイク。」



「いや、前から持ってたけど乗る機会がなかっただけ。」



「へぇ…」



また知らない一面を見つけた。



仁はバイクに跨がりエンジンを吹かす。



「乗れよ。」



「…えっあ…でも私びしょびしょだし……」



「んな事気にすんな。」




私は少しためらったあと、バイクの後ろに跨がり仁の背中を遠慮がちに掴んだ。


「お前、そんな持ち方じゃ振り落とされるぞ。」



「えっ…あっ。」


そう言われて慌てて強めに仁の腰に手を回して掴んだ。



“ブウィーン!”



バイクは風を切って走り出す。



初めて乗る仁のバイク。



ジェットコースターとか大の苦手なのに



不思議と仁の運転は恐くなかった。



うううん、もしかしたら怖がりの私の事を配慮してゆっくり走ってくれたのかもしれない。



仁の背中に捕まりながら雨と風に吹かれ、走り続けた。




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