キミのとなり。
数十分後――



見覚えのある景色の中でバイクは速度を落とした。



「着いたぞ。」



「えっ。」



着いたっ……て。



そこは、仁のマンションだった。



訳がわからずバイクを降りた。



「ちょっと待ってろ、バイク置いてくる。」



仁はそう言って駐車場に向かった。



思わずマンションを見上げる。



空はすっかり雨足が遠退き、少し星が輝いて見えた。


ここへは、来ちゃいけないはずだったのに……



私どうしてまたここにいるんだろう。



「待たせたな。」



後ろで仁がそう言った。



仁は当たり前のようにマンションの中へ入っていく。


私の足は歩き出すのを拒んでいる。



自信がないんだ。



気持ちが揺るがないという自信が……。



「おい、どした。」



少し先を歩く仁が振り返る。



俯いたまま答えに困った。


仁はゆっくり近づいてくる。



「……来てほしいんだ。」


「……え?」



「大事な話しがある。」



仁は濡れた前髪の間から例えようのない程、悲しい目をしてそう言った。



何…



どうしたの?



嫌な胸騒ぎを感じたまま、ゆっくりエレベーターで部屋へと向かった。



< 349 / 554 >

この作品をシェア

pagetop