キミのとなり。
仁は悲しい眼差しで、そして力強い手で私の腕を掴んでいる。



まだ、私の事を思ってくれているのがヒシヒシと伝わって来た。



ホッとした自分と、“いけない”と思う自分がいた。


あんなに悩んだ揚げ句出した答えなのに。



考えて考えて考え抜いて出した答えなのに……



また逆戻りするつもり?



私の中のもう一人の私がそんな厳しい言葉を投げて来た。



唇を噛み締める。



仁は決して腕を放さない。


その時、脳裏にこの間のテレビのことが浮かんできた。


珍しく生放送の歌番組で歌詞を忘れて悔しそうに俯いていた仁…



“仁も引きずってるんじゃないですか~?先輩の事”


“仕事が手に付かないんですねきっと…”



若菜ちゃんが言っていた言葉が頭を過ぎる。



やっぱり原因は私だったんだよね。



「……千秋、俺っ」



「告白されたの。」



仁の言葉に重なるようにそう言った。



「え…」



「さっきの男の子!まだ21才なんだけど、大阪から来た子でね!あぁ見えて結構しっかりしてるし、まぁアリかなぁ~って思ってるんだ!」




私はまた笑顔でそう言った。



自分が恐かった。



仁に向かって淡々とこんなひどい事を話せる自分が恐かった。



でも、私にとってはそれが……



そうする事が優しさだったんだ。



< 355 / 554 >

この作品をシェア

pagetop