キミのとなり。
“ガシッ”



え……



突然後ろから桜井君が私を抱きしめた。



「…ちょっちょっと。」



「好きやで。」



「……。」



温かくて逞しい腕に守られながら桜井君の言葉に耳を傾けた。




「さっき…仁と会ってたんやろ。」



「えっ。」



なんで知って……




「先輩がタクシーから飛び出した時、見ててんで。先輩が仁のとこに走って行くところ。」



私の耳元で寂しそうな声で彼は話しを続ける。



「めっちゃ辛かった。先輩が走って行く姿、後ろから見てただけやのに……なんか悔しくて切なくて、胸が裂けるかと思った。」



ぎゅっと私を抱きしめる腕に力が入る。



桜井君……



「それだけ、先輩の存在が俺の中でめっちゃでかくなってるんやってわかった。」



「……うん。」



「まだ好き?……ジンの事。」


「……。」



言葉が出てこなかった。



「……もし、忘れようとしてるなら」




彼はそっと私を抱きしめる腕を解いて、私の向きを自分の方へ向かせた。



今まで見た中で一番真剣で優しい目をしていた。




「俺で試してみぃひん?」


え…



桜井君はそう言ってただ優しく笑いかけてくれた。



「桜井君…」




そして、桜井君は正面の夜景に視線を戻す。



その横顔がなんだか清々しくて、彼の言葉に嘘偽りはないんだとわかった。



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